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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)4138号 判決 1966年6月21日

原告 大栄建設株式会社

右代表者代表取締役 飯島禎亮

右訴訟代理人弁護士 岡田久恵

同 村上寿夫

被告 田中鋼業有限会社

右代表者代表取締役 田中申雄

被告 田中申雄

主文

被告田中鋼業有限会社は原告に対し(但し被告田中申雄が第二項記載の金員を支払ったときは別紙手形目録記載の約束手形四通の返還を受けるのと引換えに原告に対し)、金五五万五八〇円及び内金五〇万六、〇〇〇円に対する昭和四一年一月一一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

被告田中申雄は原告に対し金五五万五八〇円及び内金五〇万六、〇〇〇円に対する昭和四一年一月一一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その二を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮りに執行できる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らはそれぞれ原告に対し各金六〇万円及びこれらに対する昭和三九年一〇月一六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、被告田中鋼業株式会社(以下単に被告会社という)は左記(一)(二)の約束手形計二通を、被告田中申雄(以下単に田中という)は(三)(四)の約束手形計二通をそれぞれ原告宛に振出した。

(一)及び(二)の手形(記載要件共通)

金額   三〇万円

満期   昭和三九年一〇月一五日

支払地  東京都中央区

支払場所 株式会社東京都民銀行麻布支店

振出地  東京都中央区

振出日  昭和三九年八月三日

(三)及び(四)の手形(記載要件共通)

金額   三〇万円

満期   昭和三九年一〇月一五日

支払地  東京都中央区

支払場所 東京産業信用金庫日本橋支店

振出地  東京都中央区

振出日  昭和三九年八月三日

二、原告は右手形の所持人として、右手形を満期に支払のため支払場所に呈示したが、取引解約後の理由により支払を拒絶された。

三、よって原告は被告らに対しそれぞれ、約束手形金六〇万円及び右金員に対する昭和三九年一〇月一六日から支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

以上のように述べ、被告の抗弁に対し「被告会社から担保の趣旨でその主張のとおりの約束手形四通の交付を受けたことは認める。しかし右約束手形はいずれも不渡となったため、昭和四〇年八月頃被告会社に返還した。代物弁済の点及び一八万八〇〇〇円の内入弁済の点は否認する。」と述べ≪立証省略≫(た)。

被告会社代表者兼被告田中は請求棄却の判決を求め、「請求原因事実は全部認める。」と述べ、抗弁として

一、被告会社は昭和三九年一〇月一七日原告に対し、本件手形金の支払に代え、仮りにそうでないとしても担保の趣旨で別紙目録記載の第三者振出手形計四通合計金額八五万円(以下本件手形に対し便宜新手形という)を裏書譲渡し(但し、右新手形も不渡となった)、かつ、同四一年一月一〇日までに金一八万八、〇〇〇円を、原告会社代表者飯島禎亮の代理人たる訴外岩崎久男に内入弁済した。

二、従って被告らは、本件手形金のうち右内入弁済額を控除した残存金額につき右新手形と引換えにのみ支払義務を負うにすぎないから、本件手形金全額に無条件の支払を求める原告の請求には応じられない。

以上のように述べ≪証拠省略≫(た)。

理由

一、原告主張の請求原因事実は当事者間に争いがない。そこで被告らの抗弁について考察する。

二、原告が被告会社から、本件(一)ないし(四)の手形四通合計金額一二〇万円が不渡となった直後の昭和三九年一二月一七日、被告主張の第三者振出の新手形四通合計金額八五万円を受領したが、右新手形もまた不渡となったことは、当事者間に争がない。そして≪証拠省略≫の記載と右新手形の授受に際し、本件手形がそのまま原告に保持され、被告らからも返還の要求をしたような形跡を認めえない本件口頭弁論の全趣旨とを綜合して考察すれば、右新手形は本件手形金債務の担保の趣旨で授与されたものと認めるのが相当である。乙第一号証によっては新手形の差入れが代物弁済の趣旨でなされたものと認めるに足らず、他に右認定を覆えすような証拠はない。

三、次に、≪証拠省略≫を綜合すれば、原告会社代表者飯島禎亮は訴外岩崎久男に本件手形元本債権の取立を委任し、被告会社の代表者たる被告田中申雄が右訴外人に対し、右手形元本債務の一部弁済として、同四一年一月一〇日までに金一八万八、〇〇〇円を支払ったことが認定できる。証人岩崎久男の証言中には右認定と牴触し、同訴外人が被告田中から受領した金員は八万円足らずで、右金員も旅費、車代等請求に際しての損失補償として受領したにすぎず、手形金の弁済として受取ったものではないとの供述部分があるけれども、前掲各証拠と対比してにわかに信用し難く、他に以上の認定を覆えすような証拠はない。

そして上記弁済金一八万八、〇〇〇円は、満期日同一である本件(一)ないし(四)の元本に均分充当されたものと認むべきであるから、被告らはそれぞれ原告に対し、手形金残額五〇万六、〇〇〇円とこれに対する昭和四一年一月一一日以降年六分の割合による利息金、及び当初元本六〇万円に対する同三九年一〇月一六日から同四一年一月一〇日まで前同様割合の経過利息四万四、五八〇円の支払義務を負担するものというべきである。

四、そこで最後に被告ら主張の同時覆行の抗弁について考察するに、前記新手形は本件手形四通の担保の趣旨で被告会社から原告に差入れられたものであることは前認定のとおりであるから、本件手形金が完済されたときには右担保手形はその提供者たる被告会社に返還すべく、本件手形金の支払と担保手形の返還とは同時覆行の関係に立つものと認めるのが相当である。被告田中は担保手形の提供者でないから、同被告は同時履行の抗弁を主張するに由がなく、被告会社も被告田中において同被告の債務を履行していない現在においては無条件の支払義務を免れないが、将来被告田中の債務が完済されたときは、新手形の返還と引換えに自己の債務を履行すべき関係に立つものというべきである。原告は新手形は既に被告会社に返還ずみであると主張するけれども、これに符合する証人岩崎久男の証言はにわかに信用し難く、他に右原告主張事実を認めるに足りる証拠がない。

五、よって原告の被告らに対する本訴各請求は上記認定の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、民事訴訟法第八九条第九二条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 守屋克彦)

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